「追想」

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『追想』

「マリク様は『あの人』を思い出す事がおありですか?」

ある日ある時、思い詰めたでも思い付いたでもない声で、リシドに問われた。
彼の云う『あの人』は、あの日あの時、皆の前で消えた存在。

「お前は、思い出すのか?」

別段批難するでもない問い掛けを、リシドは否定しなかった。

「ボクは…思い出さないよ」

静かな答えに、リシドは複雑な表情をしていた。


思い出す事なんか、ない。
ひとりの空間に戻り、改めて思う。
だって、ほら…。

「よぉ、聞いたぜ、主人格サマ」

あの日あの時と、同じ声同じ姿で、消えた筈の存在は、此処に居る。

「なぁ主人格サマ、オレの事思い出さねぇの?」

「時々思い出してくれる位でいいのに」

「なぁ…」

「煩い!こっちが思い出す暇もない位居座ってるクセに!」

違う。
ボクが縛り付けているのだ。
彼と自分を同一視する事が出来ず、
まだ自分達の犯した全てを背負いきれない。
だからそれを彼に押し付けようと、
そんなボクのエゴで繋ぎ留めているだけなのに。

「まぁ、居心地がイイからなぁ」

なんで、そんな風に笑えるんだよ。

「嫌なら追い出してくれていいんだぜ?…あの時みたいに」

からかう様な声と、真摯な瞳。


彼に全てを押し付けて追い出すのが楽、なのは知っている。
そして、それではいけない事も。

だから。

「消してやるよ」

「消してやる、ボクとお前の境界線。お前の事も、全部ボクにしてやる」

時間は掛かるだろうけど、と付け足せば、彼はまた笑った。

「楽しみにしてるぜ」

あの日あの時、枝分かれたボク達は、
いつかまたひとつになる。
けれどその日その時が来るまでは、
どうか、お前は『お前』のままで居て。

エゴイスティックに、そう願う。



今までとは少々毛色の違うSS。
理由は発行日。
「三年前の今日発売のWJ誌上で闇マリクが消された」
そんな日でした。
思いの丈詰め込んでます。