「紫苑」
『紫苑(シオン)』

一般的に良い天気とされる晴天の日、(しばしば)主人格サマはオレを外へと連れ出す。
外へ出るのはいろいろ面倒臭い事があって、余り気乗りしない。
けれど、ひとりにされるのは嫌、だから。


見上げれば見事な青天が広がっている。
降り注ぐ陽射しは柔らかく暖かい。
けれど空気は確実に以前より冷たく、これ以上冷える前に帰らねばと思う。

何気なく視線を泳がせた先で、ふと紫色の花が目に留まった。
小さな花達が、ゆらゆら風に揺れている。
別に、それだけなのだが。

それ以降も、何かにつけ紫色の花が目に留まった。
他の色の花も咲いているのに。
紫色の花だけが…。

「どうかしたのか?」

心配そうな声で問われて、今度は主人格サマと目が合った。
瞬間、オレの小さな疑問はあっさり解けた。

「…眼だ」

「は?」

「さっきから紫色の花ばっか目に留まる。なんでかと思ったら…」

「…何?」

「主人格サマの眼の色に似てるからだ」

オレはそれですっきりしたが、主人格サマは変なカオをしている。

「似てるって…一口に紫って言っても、どれも少しずつ違うだろ?」

そこら辺の花なんぞと似たものにされて不服だったのか?

「心配しなくても、主人格サマの眼の色が一番キレイだぜ?」

心から言ったのに、主人格サマはますます変なカオをしてしまう。

「お前だって、ボクと同じ眼の色してるクセに!」

ぷいとそっぽを向きながら放たれた主人格サマの言葉に、オレは耳を疑った。
オレがキレイだと言った主人格サマの眼の色。
それと同じ色だと言ってくれたという事は…。

「なぁ主人格サマ、それって…」

「五月蝿い、一々聞くな!早く帰るぞ!」

逃げる様に早足になる背中を、それより早いスピードで追い掛ける。


外へ出るのはいろいろ面倒臭い事がある。
けれど、時には外へ出てみるのも悪くない。
そう思わせる事が、今日一つ増えた。



出不精さん(笑)な闇マリ視点のSS。
好きなものと似た色のものには自然と目がいく、というお話。
実際、秋口には結構紫色の花多かったと思いますが…。
終盤主人格様が荒れてる(?)のは、ただの照れ隠しです。
そんな反応が見れるのも、闇マリには嬉しいのでしょう。きっと。