夜通し荒れ狂った嵐は、明けても尚その勢力を誇示し続けている。
それにより、闇マリクの『主人格とふたりで過ごす幸福な時間』は増える事になった。
それは、とても満たされた時間だった。
けれど、何か足りない気がする。
時が経つにつれ嵐も徐々に遠退いて、日の暮れる頃には、
あれ程凄まじかった力の片鱗も感じられなくなっていた。
日中雨風の音に神経を尖らせていたマリクも、落ち着きを取り戻しつつある。
そんな彼の傍で、闇マリクはふと外の様子はどんなものかと窓に目を遣った。
窓の外の景色を支配していたのは、目を見張る程の、一面の紅…。
「すげぇ夕焼け…」思わず零れた呟きに
「こんな夕焼け、久し振りに見た」
と、同じ様な呟きが掛かる。
しかし、マリクの次の言葉は。
どこか虚ろな響きを孕んだその声に振り向けば、彼はつと視線を外してしまう。
「主人格サマ…」
呼び掛けてはみたものの、その先が続かない。
それでも何か、と口を開きかけた時、顔を上げたマリクが先に声を発した。
その声に、先程の様な響きはない。
「こんだけの夕焼けなら、明日は見事な晴れだろうぜ」
自然、安堵の表情を浮かべつつ、たいした根拠もなく言ってみれば、
彼は少しだけ笑った様に見えた。
その小さな小さな微笑みに、
闇マリクは、今日という日に何が足りなかったか解った気がした。
あした天気になりますように。
あんたの心も晴れますように。
あんたの笑顔が、見られますように…。