「奔放」
『奔放』

しつこく居座る残暑が幾らか和らぎをみせたある日、
マリクは闇マリクを散歩へと連れ出した。
暑さが残るといえど、季節はもう初秋。
渡る風は秋の香りと涼しさを含んでいる。
家を出る際は散々渋った闇マリクも、今はその風を享受し微笑んでいた。


近所をぐるり巡って最寄の小学校の脇に差し掛かった時だった。
元々学校など五月蝿い場所と認識しているが、
それを上回る歓声がふたりの耳に届いた。
大勢が発する、大きく、威勢の良いそれは、テンポの早い曲に乗って流れてくる。
一体何事かと校門から見てみれば、体操着の子供達が校庭に楕円形に席を組んでいる。
その中で何か競技が行われているらしかった。

「…何やってんだぁ?」

「…多分、運動会ってやつだよ」

小首を傾げる闇マリクに回答を示しつつ、マリクは子供達を眺めた。
目を輝かせ、声を張り上げ、隣の子と戯れては笑い合う。
その楽しそうな様子に、マリクは彼らと同じ年頃の自分を思い出して目を伏せた。
深く考えるつもりはなく、ただ、自分にはこんな機会はなかったという事だけを思って。


「なぁ、主人格サマ」

ふわつきかけたマリクの意識を、闇マリクの声が呼び戻した。

「オレ達も運動会しねぇ?」

これは妙案とばかりに笑顔をみせる闇マリクの唐突な提案に、マリクは目を瞬かせる。

「運動会って…ふたりで何するんだよ?」

当然なマリクの問い掛けに、闇マリクは一瞬腕組みをしてみせたが、

「そうだな…此処から家まで競争っていうのはどうだ?」

と言うが早いか、ぱっと駆け出した。

「あっ!コラ、待て!」

空を切ったマリクの制止の先で、振り返った闇マリクが笑う。

「ほらほらぁ、早く来ないと置いてっちまうぜぇ?」

再び走り出したその背中に、マリクは深い溜息をついた。

自分以上にこんな機会と縁のなかった彼は、それに出会うと今みたく子供じみる事がある。
時に煩わしく時に頭の痛いそれらの行動は、けれど不快ではなくて。
今もきっと、追い掛けて来ない自分の視界ギリギリで、迷子寸前のカオで待っているだろう。
そして自分が追い付けば、またあの悪戯っぽいカオで笑うだろう。
その変貌を容易に想像しながら、マリクは勢い良く駆け出した。



主人格様視点の運動会ネタ(?)。
重暗い過去を示しつつ、闇マリのコドモっぷりがそれを粉砕(笑)。
その行動は、自分が楽しみたいだけか、はたまた…?
どちらにせよ、今日もふたりはしあわせそうです。