日も暮れて暫く経った自室の窓辺に佇む自らの半身に、マリクは問い掛けた。
「…月…」
彼にしては珍しくこちらを向きもせず零した言葉に、隣へ歩んで空を見上げれば。
確かに、見事な満月が浮かんでいた。
そういえば、先程テレビで『今日は中秋の名月』などと言っていた気がする。
それにしても。
意外な思いを口にすれば、
「別に愛でてなんかねぇ」
と、不機嫌な声が返ってきた。
その割には動く気配のない闇マリクに、マリクは彼の知らない知識を披露してみる。
説明しながら月に手を伸ばし、指先でくきくきと輪郭をなぞってみせると、
彼はわかった様なわからない様なカオをして、
と呟いた。
先程の複雑な表情はなくなったものの、闇マリクは相変わらず月を見上げ続けている。
そんな彼の姿を、マリクはキレイだと思った。
自分と同じ姿の相手にキレイも何もないのだが、姿というよりも、
異国の月に照らし出されるその存在が、堪らなくかけがえのないものに思えた。
彼がどんな想いで月を見ているか、マリクにはわからない。
けれどか、だからか、
今夜は彼を見ていようと思う。
いつも自分の方ばかり見ている彼の貴重な姿を見せてくれた、今宵の月に感謝しながら。
たまには逆の立場を味わってみよう。
たまには、たまには…。