「風藾」
『風藾(フウライ)』

既に陽の落ちた空は雲に覆われ尚暗く。
就寝時も明かりを残す室内も、厳重に窓を閉めた為常より暗い。
荒れた風が外壁を叩き家を揺さぶり、突き刺す様な雨音が混じる。
嵐が、近付いているらしい。


闇マリクは、うっすらと目を開けた。
別に、嵐の気配に眠りを妨げられた訳ではない。
寧ろそれは…。

「…眠れねぇの?」

隣で落ち着きなく身動ぎを繰り返す彼に問い掛ければ、

「あ…起こしたか?」

一瞬驚いたカオをして、次には笑顔を浮かべる。
明らかに無理をしている主人格の様子に、思い当たる節のない訳がない。

この暗い空気。そしてこの音。

「風の音が…」

「亡者の呼び声にでも聞こえるか?」

マリクの表情が引き攣る。
分かり易い反応に内心嘆息しつつ、闇マリクは腕を伸ばした。

「うわっ…な、何するんだよっ?」

抗議の言葉をさらりと無視し、そのまま自分の胸に押し付けて言い放つ。

「隣でンなゴソゴソされてたら眠れねぇだろ。
そんなに風の音が嫌ならコッチの生きてる音でも聞いてろ」

軽く小突いてやれば、腕の中はぴたりと大人しくなった。
が、次いで細かな震えが伝わってくる。
苦しいのかと腕の力を緩めてみれば、

「ありがとう」

と、小さな声がした。


暫く後、腕の中から安らかな寝息が聞こえ始めた。
闇マリクは満足そうに目を伏せる。

降り注ぐ雨の音も、吹き荒ぶ風の叫びも、もう届かない。
大切な人の生きてる音が、何にも負けない子守唄。



発行時台風シーズン到来中。
ちょっとオトナな闇マリ視点。
心臓の音も呼吸音も、生きてる証。
大切な人のそれは、他にない安らぎをもたらすと思う。