「…っくしゅん!」
信号待ちの交差点にマリクのくしゃみが響いた。
「大丈夫か?主人格サマ…」
荷物を提げた闇マリクが心配そうに声を掛ける。
「大丈夫」と笑顔を作って答えながら、
マリクは先日耳にした『秋の日は釣瓶落とし』という言葉を思い出していた。
今日は見事な秋晴れだった。
家に居るには勿体ないと思わせる好天に、マリクは闇マリクを買い物へと誘った。
相変わらず彼は外出に対し乗り気でない。
だが今日は、意外にすんなり誘いに乗ってきた。
だからというだけでもないだろうが、今日は不思議な位に買い物を楽しんでいたのだ。
そう、時間を忘れてしまう位に…。
先の言葉は、秋の日の暮れやすい事をいうものだと聞いたが、まさにその通りだろう。
気が付けば、空は暗くなっていた。
そして日が落ちれば、当然気温も下がってくる。
家を出る頃は日本の季節というものを疑いたくなる位に暑く感じた為、
上着無しで出たのが間違いだった。
まるで、冷えた空気が生地の薄い服を素通りして、直接肌に触れてくる様な感じがする。
なかなか変わらない信号を睨みつけながら、マリクは袖を伸ばす様に自らの腕を掴んだ。
その時、隣でどさどさと荷物を置く音がした。
マリクの隣には闇マリクしか居ない筈である。
「何してるんだ」と振り向こうとした瞬間、肩にばさりと何かが掛けられた。
それが闇マリクが着ていた上着だと気付いて、マリクは慌てた。
彼はこの下には、ノースリーブのシャツしか着ていないのだ。
そんな状態で、自分に上着を寄越すなど…。
しかし闇マリクは、置いた荷物を抱え上げながらしれっと言い放った。
確かに、彼の上着は熱を含んでとても暖かい。
けれど本当に暖かいのは、彼のその心遣いで。
先程までの肌寒さなど気にならない程心まで温まるのを感じ、
感謝の気持ちを込めてマリクは微笑んだ。