「暗雲」
『暗雲』

雨の日は嫌いだ。
正確には、暗く曇って音も無く雨の振る日、が嫌いだ。


闇マリクが目を開ければ、外は今まさにそんな天気だった。
昼も夜と錯覚する暗い空に、無音の雨がちらちら映る。
いっそ、稲妻が走って叩き付ける様な雨が降る、そんな方がまだマシだと、
不快感も露に目を伏せた。

こんな日は、否応なく思い出される。
光も、音も、何も無い、ずっと独りきり、封じ込められたあの世界。
闇と孤独に抱き竦められ、気が狂いそうなあの…。

堪らなくなって伸ばした手に、ふと、温かいものが触れた。

「どうしたの?」

発せられた声と、自分の手に重なる感触に、それが彼の手だと気付く。

「主人格サマ…」

譫言(うわごと)の様に呟いて目を向けると、彼は困った様に笑い、今度は目で問い掛ける。
暫く視線を逸らせずに、しかし「何でもねぇ」と答え、闇マリクは再び目を閉じた。


ただひとつ、重ねたその手を放さないで、と、
またあの世界に堕ちぬ様に、あんたの隣に居られる様に、と、
そう心で伝えながら。



1番最初に発行したSS。
梅雨時だったので、雨絡みネタ。
視点は闇マリク。
しかし初っ端から自分設定というのもどうかと…(汗)。
闇マリが弱々しいです。